大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2542号 判決 1974年10月21日

控訴人

芳賀毅一

右訴訟代理人

浜田龍信

被控訴人

東京電力株式会社

右代表者

木川田一隆

右訴訟代理人

小薬正一

右復代理人

柏崎正一

右補助参加人

中野区

右代表者区長

大内正二

右指定代理人

加藤直人

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録(一)記載の電柱および電線を撤去して同目録(二)記載の土地を明け渡せ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

一、訴外磯田米は、本件土地を所有していた当時、中野区長に対し本件土地につき特別区道路線認定の出願をしたことはなく、本件土地を補助参加人に寄附したこともない。従つて、中野区長は本件土地につきなんらの権原なしに特別区道の供用開始の処分をしたものであるから、該供用開始の処分は無効である。

二、仮に右磯田が補助参加人に対し特別区道の敷地として本件土地を無償譲渡したものであるとしても、これに基づき所有権取得登記を経由しないうちに、右土地は磯田から根岸儀元に売り渡されて所有権移転登記が経由され、その後設定された抵当権に基づいて競売が開始され、控訴人が競落して所有権を取得し、昭和三一年一二月二三日控訴人のため所有権移転登記が経由された。補助参加人は本件土地の所有権について対抗要件を具備しなかつたのであるから、中野区長が昭和二九年一二月七日本件土地に対し特別区道としてなした供用開始の処分は、結局正当な権原に基づく適法なものということはできない。更に、中野区長は、本件土地につき所有権以外の第三者対抗要件を具備した権原を取得して右供用開始の処分をしたものでもないから、右供用開始は無効である。

三、中野区長の供用開始が無効である以上、中野区長が被控訴人に対し本件土地につきなした占有許可も無効である。

四、よつて、被控訴人は、適法な権原なくして本件土地上に本件物件を設備していることに帰するから、控訴人に対し、右物件を撤去して本件土地を明け渡すべき義務がある。

と陳述し、

被控訴代理人は、

一、本件土地は戦前より一般交通の用に供され、道路としての形体をととのえていたものであるが、昭和二九年八月二日、当時の所有者磯田米が中野区長に対し「特別区道路線認定並に敷地上地願」を提出し、補助参加人に無償譲渡し、中野区長は、昭和三〇年一月七日、東京都中野区告示第一号をもつて、地方自治法施行令(昭和二二年政令第一六号)附則第四条、道路法(昭和二七年法律第一八〇号)第八条の規定に基づき、特別区道(道路区域は中野区本町二丁目から朝日ケ丘地内まで、供用開始日は昭和二九年一二月七日)に認定し、その供用を開始し、その関係図面を中野区役所において一般の縦覧に供した。

二、本件土地上の施設工作物は道路管理者である中野区長の道路占有許可を得て設置しているものである。

三、控訴人が本件土地の所有権を取得したとしても、右土地は道路を構成しているから、道路法の規定により私権の行使を制限された状態で右取得がなされたものというべきである。

四、仮に中野区長の供用開始の処分が無効であるとしても、控訴人は本件土地上に本件物件等の施設の存在することを熟知し、多額の経済的利益を得る目的をもつて原判決の「第四抗弁二」に記載のような事実関係のもとに控訴人は本件土地を取得した等の事情があるから、控訴人の本訴請求は権利の濫用である。

五、右供用開始は、道路としての形体を既にととのえていた本件土地につき補助参加人が適法な権原を取得したうえでなされたものであるから、有効な行政行為であるとともに、本件土地は公用物たるの性格を取得したものというべきである。私人の所有に属する公用物は公用の目的たる道路でさ(ママ)ることを妨げない範囲において処分をなすことができるにすぎないと解すべきである。

六、本件供用開始当時、補助参加人はその所有権につき対抗要件を具備してはいなかつたが、本件土地の所有者であり、他に前記磯田米から所有権を譲り受けて所有権移転登記を経由した者はなく、控訴人もそのような者ではない。従つて、本件供用開始の処分は、すべての者に対する関係で有効になされたというべきである。そして、いつたん有効に供用開始がなされた以上、本件土地は公用物となり、その後において本件土地を二重に譲り受けて所有権移転登記を経由した者といえども、右供用開始によつて生じた道路法四条の私権の制限を免れないと解すべきである。

七、本件土地については、前記のとおり、補助参加人が磯田米より無償譲渡を受けて所有権を取得し、供用開始の処分並にその公示がなされ、かつ、右土地は戦前から道路として一般に交通の用に供され、電柱をはじめ諸種の工作物が設置されていたものであり、控訴人はこのような事情を知りながら、過大な経済的利益を得る目的で極めて低廉な価格で本件土地を取得したものである。一方、被控訴会社の本件物件等の設備は、本件土地付近一帯の居住者等に電気を供給するため必要欠くべからもの(ママ)であり、しかも、これを撤去し、新たな供給設備を設置することは不可能である。このようなわけで、控訴人は民法一七七条の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらず、補助参加人は控訴人に対し本件土地の所有権の取得を登記なくして対抗できるものというべきである。と陳述し、

<証拠略>

理由

一当裁判所は、当審における当事者双方の主張・立証の結果を考慮しても、控訴人の本訴請求を理由がないと判断するが、その理由の詳細は次のとおり付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

二道路法に定める道路を開設するためには、原則として、まず路線の指定または認定があり、道路管理者において道路の区域を決定し、その敷地等の上に所有権その他の権原を取得し、必要な工事を行なつて道路としての形体をととのえ、さらに、その供用を開始する手続に及ぶことを必要とするものであつて、他人の土地について何らの権原を取得することなく供用開始することが許されないことはもちろんであるが、いやしくも、右の手続を経て当初適法に供用開始の処分がなされ、道路として使用が開始された以上、当該道路敷地については公物たる道路の構成部分として道路法所定の制限が加えられることとなる。そして、その制限は、もとより当該道路敷地が公の用に供せられた結果発生するものであつて、道路敷地使用の権原に基づくものではないから、その後に至つて、道路管理者が対抗要件を欠くため右道路敷地の使用権原をもつて後に右敷地の所有権を取得した第三者に対抗しえないこととなつても、当該道路の廃止がなされないかぎり、敷地所有権に加えられた右制限は消滅するものではなく、その後に当該敷地の所有権を取得した右の第三者は右の制限の加わつた状態における土地所有権を取得するにすぎないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四四年一二月四日第一小法廷判決、民集二三巻一二号二四〇七頁参照)。

前記のとおり(本判決の引用する原判決の理由欄の記載)、本件土地はもと磯田米の所有に属したが、同人は隣接地の所有者であつた須崎シズとともに各所有土地を昭和二九年八月三日頃補助参加人に特別区道の用地として無償譲渡し、中野区長は、区議会の議決を経て本件土地を特別区道として路線を認定し、その区域を決定したうえ、昭和二九年一二月七日道路として供用を開始し、昭和三〇年一月七日間区告示第一号をもつてその旨公示したものであるが、磯田米は右土地について補助参加人に対し所有権移転登記手続を履行しないばかりか、かえつて昭和三一年一一月二四日訴外根岸儀元のため売買による所有権移転登記手続をし、さらにその後設定された抵当権に基づく競売により、控訴人が昭和四〇年一一月二五日本件土地を競落して所有権を取得し、同年一二月二三日所有権取得登記を経由したものであり、被控訴人は中野区長から電気供給のため電柱等施設の設置を目的として道路占有許可を受けて、本件土地の上に本件物件を設置して本件土地を占有しているものである。

そうとすれば、補助参加人は本件土地の所有権の取得をもつて控訴人に対抗することができず、ひいて被控訴人も本件土地の使用権原をもつて控訴人に対抗することができないけれども、控訴人は、道路法の規定に基づき私権の行使を制限された状態において本件土地の所有権を取得したものにすぎず、補助参加人に対し道路法の規定に基づく私権の制限をこえて所有権の行使をなすことはできず、ひいて、被控訴人に対しても本件物件の撤去および本件土地の明渡を求めることはできないものといわなければならない。

三よつて、控訴人の本訴請求は、被控訴人のしたその余の抗弁について判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決は相当で、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 真船孝允 鈴木重信)

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